老いていく自分を認める
私はどうやら、自分の思い通りに動けることが好きなようだ。
頭の中にあるアイデアをコードに落とし込み、思いついたその日のうちに試してみる。 心と体が自分の意図した通りに動くこと。それが自分らしさだと思っている。
しかし最近、どうも体が正直になってきた気がする。
別に、無理ができなくなったわけではない。 つい最近も、海外在住のエンジニアと書籍を執筆する機会があり、時差に合わせて深夜まで作業に没頭した。やりたいことのためなら、まだまだ気合いで乗り切れる。
ただ、昔と違うのはその後の反動だと思う。
無理をした翌日は、ずっと頭がぼんやりする。疲れが抜けなくて、一日中調子が出ないこともある。 昔なら一晩寝れば元に戻っていたのに、今はほんの数時間の無理が次の日にずっと響く。 そしてこの反動が、年々じわじわ大きくなっている気がしている。
そう考えると、「時間をかけた分だけ進む」という力技のやり方は、そろそろ通用しなくなってきているのかもしれない。
今こうして自由に動けていることも、いずれ当たり前ではなくなるのだろう。 気がつけば、年齢の十の位が変わろうとしている。
エンジニアになったのは 20 歳の時だった。 当時はすべてが新鮮で、何でも吸収できたように思う。 人生のピークは 20 代前半で終わる、という説がある。おそらく迷信だろうとは分かっている。 けれど、それをどこかで漠然と信じてきた私にとって、今の自分は退化しているようにしか感じられないのだ。
20 代後半にもなると、もう若手とは呼ばれない。かといってベテランというわけでもない。 昔みたいに「何も考えずにひたすら時間をかけて、力技で手を動かして全部覚える」というやり方は、だんだんしんどくなってきた。 ただ、体の変化に合わせてなのか、自分の物事の捉え方も少しずつ変わってきているのを感じる。
わかりやすいのは、エンジニアとしての技術との向き合い方かもしれない。 昔は「モダンな技術を使うこと」それ自体が目的になっていた気がする。新しいツールが出れば、とにかくその仕様を隅から隅まで丸暗記しようとしていた。そして当時の自分には、それをゴリ押しで詰め込めるだけの馬力があった。
今は少し違う。 特定の製品の仕様を闇雲に追うのではなく、まずはその裏にある抽象度の高い技術概念を理解して、それを個別の製品に当てはめて考えるようになってきた。 「なぜそれが必要なのか」「何を解決したいのか」が先にあって、そのための手段として適切ならモダンな技術も使う。必要でなければ、無理に新しいものを追うことはしなくなった。
何でも丸飲みできた頃には、こんな視点は持てなかったと思う。 力技で吸収できなくなった代わりに、物事の構造を捉えて応用できる場面が増えてきた気がする。 これを「退化」と呼ぶのかどうかは、正直まだわからない。
一方で、変化が全部良い方向かというと、そうでもない気がしている。
私にはギターとビートメイクという趣味がある。 昔はただ純粋に好きだった。良い音が出せたら嬉しいし、かっこいいビートが作れたらそれだけで満足していた。 でも最近、気がつくと「このビート、売れるかな」とか「YouTube のチャンネル登録者を 1000 人にして収益化できないかな」みたいなことを先に考えている自分がいる。 音を鳴らす前に、頭のどこかで金の計算をしてしまっている。
こういう思考がいつの間にか当たり前になっていることに気づいて、ちょっと呆れた。 好きだから始めたはずのものに、いつの間にか「元を取りたい」みたいな打算が入り込んでいるのを感じる。 これが「大人になる」ということなのか、それとも単に自分がつまらなくなっただけなのかはわからない。
こうやって振り返ると、良くも悪くも、あの頃の自分とは確かに変わってきている。 じゃあこれからどうするのかと考えると、結局、将来というのは今この瞬間の積み重ねなんだと思う。 今日サボったら明日もずっとサボるだろうし、今日やればそれをそのまま積み上げていけるはずだ。 老いたかどうかを判断するのは、少なくとも今は自分自身でしかないから、そう感じないために今をちゃんとやるしかないと考えている。
平日であれ休日であれ、やりたくないことはどうしても毎日出てくる。 昔なら若さと徹夜で乗り切れたかもしれないが、それが通用しなくなった今、目の前の面倒なことを一つずつ片付けていくしかないのだろう。 そうやって過ごしていくことが、将来への漠然とした不安に対して自分ができることなのかなと思っている。
「老い」が突然やってくるわけではなく、たぶん少しずつ「老いていく」ものなんだろう。 体力の変化も、考え方の変化も、趣味への向き合い方の変化も、全部その途中にあるのだと思う。 きれいに割り切れるわけではないけれど、まずはそうやって変わっていく自分を認めること。 その上で、モヤモヤしながらでも進んでいくしかないんだろうなと思う。